知って下さい、精神保健福祉法 「32条制度」

ストレスがまん延する、現在の日本社会。近年、うつ病など心の病についての関心が高まり、精神疾患が「誰でもがかかる可能性のある病気」として理解され始めています。自殺者が7年連続で年間3万人を超えるという深刻な事態をうけ、厚生労働省もようやく、自殺を減らすための大規模なうつ病対策研究に乗り出しました。

その一方で、心の病にかかってしまった患者の通院医療費(自己負担)を減らす制度=「精神保健福祉法 32条制度」が存在していることは、まだあまりよく知られていません。

うつ病などにより働けなくなった患者にとって、治療を続け命をつなぐためのまさに「命綱」と言うべき32条制度。この制度が今、危機に瀕しています。現在国会で、この制度の大幅な改悪がされようとしているのです。今年の春に行われた32条改悪に反対する署名活動では、全国で最終的に23万人近くの署名が集まりました。しかし、この32条改正問題はメディアでもほとんど取り上げられることもなく、知っている人はまだまだ限られています。

ぜひ、一人でも多くのお知り合いの方にこの問題をお知らせ下さいますよう、お願い申し上げます。
  32条改悪反対グループ「32project <患者と現場の声>」 一同

  • 心の病にかかってしまった時…患者の医療費自己負担を減らす「32条制度」があります。

32条制度」とは、正式には、精神保健福祉法32条の「通院医療費公費負担制度」と言い、申請により精神的な病気の通院医療費の自己負担が5%(残りの95%は公費負担)になるという制度です。自治体によってはさらに、自己負担率0%となる所もあります。心の病気にかかると会社へ行ったり仕事をしたりすることができなくなり、収入を断たれる場合が少なくありません。この32条制度があるおかげで、収入が断たれた人も経済的に安心して病院に通い、病気の治療を行うことが可能になっています。

今の国会に、厚生労働省が「障害者自立支援法」という法案を提出しているのをご存知でしょうか。これは、身体・知的・精神の3つの障害にまたがる内容の大きな法案で、7月3日に投票が行われる東京都議会選挙の争点にもなっているため、報道等で耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。与党(自民・公明)は法案に賛成し、野党(民主・社民・共産)はいずれも法案に反対の立場を取っていますが、実はこの「障害者自立支援法案」に、現行の精神保健福祉法の改正と、32条制度の大幅な見直しが盛り込まれているのです。

  • 精神疾患患者のための福祉が大幅に切り捨てられる…!

32条制度での通院医療公費にあたるものは、「障害者自立支援法案」では「自立支援医療費」という名前で出てきます。様々な政令・省令規定の具体的中身が明確にされていないため、この法案は極めて分かりにくいものですが、基本的な厚生労働省の方針は、

    • 生活保護世帯を除き通院医療費の自己負担率は10%に引き上げる。一定所得以上(所得税30万円以上)の場合は公費負担を廃止し、医療保険の全額自己負担(=自己負担率30%)とする。
    • 自己負担率の決定に際しては、本人所得の額ではなく世帯単位の所得を基準とする。
    • 一定所得以下と”重度かつ継続”的な患者のみを公費負担の継続的対象者とする。その他の者は制度改正後、公費負担の対象者として認定されない(=30%の全額自己負担になる)可能性がある。

…などというものです。
 しかも厚生労働省は、“重度かつ継続”的な患者の定義を「病名によって行う」としています(具体的には統合失調症・狭義の躁うつ病・難治性てんかんの3つのみで、うつ病などは含まれていません)。これについては、精神医療関係者の間や国会質疑の場で、「疾病名による定義は、専門的な見地からは非現実的で無意味」ときびしい批判が出ています。

 つまりこの法案が成立すると、これまで5%の自己負担で済んでいたのに、10%あるいは30%の自己負担をしなければならなくなる患者が大量に生まれます。精神医療の薬は高額なものが多く、就労不可・制限で経済的に苦しいなか、通院医療費の自己負担が増加するとなれば、必ず患者は受診抑制や病院離れを起こし、それによって病気をさらに悪化させるという悪循環におちいってしまいます。

 このように今回の制度改正は、通院治療の必要な患者を経済的・心理的に追い詰め病状を悪化させ、自殺という形でその命まで奪いかねない、大変な改悪なのです。現在政府が「自殺予防や心の健康の問題に取り組む」と一方ではうたいながら、他方では心の病気の治療を困難にさせ、患者の回復や社会復帰を阻害するような制度改正を行うというのは、全く納得できません。

  • 改悪を阻止できるのは、今しかありません!

 現在、衆議院での「障害者自立支援法案」の審議はストップしていますが、都議選投票日(7月3日)前後に審議が再開され、その後1週間以内程度で採決に持ち込まれると言われています。
 この法案についてはこれまで、多くの障害者や団体が問題を指摘し、「当事者の声を聞かずに法案を決めないで!」と反対運動を行ってきました(http://www.jdforum.jphttp://www.j-il.jp/jil.files/daikoudou/daikoudou_top.htmなど)。

 国会の審議でも、法案の様々な問題点や不明確な箇所が浮き彫りになり、6月8日には民主党が、32条制度の改正凍結など法案の大幅修正の要求を与党に提出しました。しかし、与党が法案修正に消極的であったため結局与党・民主党間の修正協議は決裂。結局、与党自民党公明党の賛成多数により、法案がそのまま成立してしまう可能性があるのです。

  • 私たち市民にできることは…?

32条制度・障害者自立支援法案に関する情報を広めて下さい!
 心を病んでしまった時、唯一受けられる公的福祉がこの32条制度ですが、まだまだ広く一般に知られているとは言えません。患者の中にさえ、制度を知らないまま通院し医療費を払っている人がいるほどです。ぜひ一人でも多くの人に、32条制度・障害者自立支援法のことをお知らせ下さい。

患者の生の声を知って下さい!
 当グループでは、患者にとってまさに「命綱」である32条制度の存続を訴えるため、インターネット上で患者の生の声を集め、厚生労働省や法案審議を担当する国会議員に送りました。就労不可による経済的困窮、職場での偏見や家族の理解の無さ、いつまで続くとも知れない治療、高価な薬代、この不況下で親や家族を養わなければならない重責、難しい再就職への道、「自分は家族に迷惑をかけている」「消えてしまいたい」という思いとの1分1秒ごとの戦い…。グループの合同サイト(http://www.geocities.jp/project32c/)上で紹介していますので、是非、患者の切実な声を聞いて下さい。

32条制度改悪反対」の声を、国会議員・厚生労働省へ送ってください!
 先述のように、国会では法案の採決が日々迫っており、改悪を阻止できるのは今しかありません。ぜひ「精神保健福祉法32条制度の改悪に反対し存続を求める」声を、各党の意見窓口(特に与党)、地元の国会議員・厚生労働委員会所属の議員、厚生労働省などに、メール・ファクス・電話などで送って下さいますよう、お願い申し上げます。

https://www-secure.mhlw.go.jp/getmail/getmail.html
http://www.e-gov.go.jp/policy/servlet/Propose
(必ず「精神保健福祉法32条改正について」など具体的なタイトルを入れて下さい)

      info@dpj.or.jp

なお、当グループのサイト・ブログもご覧頂けると幸いです。

    32条改悪反対グループ
   「32project<患者と現場の声>」 
 (精神疾患患者を中心に結成されたグループです)
       c32_project@yahoo.co.jp
  合同サイトhttp://www.geocities.jp/project32c/
      http://www.32project.com(新サイト)
 グループブログhttp://sea.ap.teacup.com/32project/